『プレゼンス 存在』ホラー・・・なのか?(ネタバレあり)

新作映画レビュー

画像出典:IMDb-Presence

作品情報

 全編を幽霊目線の一人称で描いたホラー映画。

 監督は『オーシャンズ』シリーズのスティーヴン・ソダーバーグ。脚本は『スパイダーマン』のデヴィッド・コープ。

 出演は『チャーリーズ・エンジェル』のルーシー・リュー、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』のクリス・サリヴァン、『アンカット・ダイヤモンド』のジュリア・フォックス。

ホラー映画なのに怖くない

 前述したとおり、この映画は全編が幽霊の一人称目線で描かれています。しかし正直このアイディアが功を奏していたとは思えません。

 幽霊がなぜ不気味で恐ろしいのか?それは正体がわからない、どこで何をしているのかがわからないからこそ恐ろしいのです。人間は”わからないもの”に対して恐怖を抱きます。なので傑作とされるホラー映画は幽霊や怪物の姿をなかなか見せようとしないのです(『ジョーズ』(1975)しかり、『エイリアン』(1979)しかり、『シャイニング』(1980)しかり・・・)。

 しかし今作の幽霊は観客の目線と一体化してしまっており、その不気味さが薄れてしまっています。なぜならわれわれ観客は幽霊がどこにいて何をしようとしているのかがわかってしまうからです。

 しかも今作の幽霊は正義心や思いやりを持っています。家に越してきたクロエ(カリーナ・リャン)の私物をベッドから机へ移動してあげたり、ライアン(ウェスト・マルホランド)が彼女に薬を盛ろうとしたときにはジュースをテーブルから落としてあげたりしているのです。その様はもはやフランケンシュタインの怪物のようであり、微笑ましさすら感じます。

 同じく幽霊を主人公にした映画として『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』(2017)があります。しかしこちらは幻想的なファンタジーとして作られているのです。”幽霊が主人公”というアイディアでホラーを作るのにはやはり無理があったと思います。

セリフが説明的すぎる

 ホラー映画として観ても怖くありませんが、普通の映画として観ても今作はあまり出来栄えが良いとは思えません。

 まず登場人物が自分の感情や動機をセリフで説明する箇所が非常に目立ちました。その筆頭がクロエとライアンの2人の会話シーンです。

 この場面でクロエは親友を失ったことによる死への恐怖を告白し、ライアンは抑圧的な母親から逃れて自分が支配権を獲得したいと暴露します。

 これらの台詞は物語内において重要ではあります。クロエの親友が死んだ事件はその後の展開の核となりますし、ライアンの独白は彼の犯行の動機となっています。しかしその伝え方があまり自然には感じられません。片方が長々と話し、もう片方はただ聞いているだけなのですから。

 これはラストでクロエを殺そうとするライアンの場面でも同様です。彼はここでクロエの友人2人を殺したのが自分であり、相手の命を”支配”できることが殺人の動機となっていることをご丁寧に説明してくれます。

 このときのクロエに意識があったのがどうかはわかりませんが、人を殺すときにあんなにもベラベラと喋るものでしょうか。流石に辟易としてしまいました。

ペイン一家の歪な家族関係

 舞台となる家に越してきたペイン家の家族たちは、どうやら色々と問題を抱えているようです。

 父親のクリス(クリス・サリヴァン)は法律スレスレの行為に手を染めているらしいことが、友人と電話をしている場面から読み取れます。母親のレベッカ(ルーシー・リュー)も仕事上のトラブルを抱えているようです。夫にパソコンの画面を見せたがらない様子や、出張直前での夫婦間での会話からそれが伝わってきます。またご近所トラブルにも巻き込まれているようです。

また父のクリスは娘を、母のレベッカは息子を溺愛しており、それぞれもう片方の子供に対して若干当たりが強いように感じられます。クリスは娘のクロエの幽霊話に真摯に耳を傾けたりする一方で、妹の話を信じない兄のタイラー(エディ・マディ)に対してかなり怒鳴っています。レベッカは息子のタイラーに「全てはあなたのため」と言って彼を気遣っていますが、親友を失った娘のクロエにセラピーを受けさせることに乗り気ではなく、夫の提案に対してもなあなあで済ませようとします。

 このように家族が抱える多様な問題が劇中に散りばめられてしましたが、これらの要素は発展することもなく放置されてしまっています。例えば父親のクリスが具体的にどんな行為に手を染めていたのかは最後まで明かされません。もう少し膨らませれば面白くなったであろうに、何だか勿体無いと感じてしまいました。

幽霊の正体とは?

では劇中で描かれていた幽霊の正体とはいったい何だったのでしょうか?

 クロエは死んだ親友であるナディアではないかと言っていますが、その可能性は低いでしょう。この幽霊は舞台となる家から出ることが出来ません。なので生前の幽霊はこの家に住んでいたと推測できます。もし幽霊がナディアだったとしたら、越してきた家が死んだ親友の生きていた場所だとクロエが気がつくはずです。

 さて劇中でこの幽霊が大きく動揺する場面があります。それはタイラーがクラスメイトの女子をからかって撮った写真を家族に見せるシーンです。これを見た幽霊は2階に上がってポルターガイスト現象を起こします。恐らく生前の幽霊はこうしたネットを使った嫌がらせによって追い詰められていたのではないでしょうか。

 さらにこの幽霊は事あるごとにクロエの部屋のクローゼットに隠れます。生前の幽霊がここで死んだであろうことが推測できます。

 そしてラストで幽霊は初めて家を脱して空へと浮上してゆきます。これはタイラーという新しい霊が家に住み着くようになったので、居場所が無くなった元の幽霊は天に召されたということでしょう。

まとめ

 幽霊の浮遊感を表現するためのフワフワとしたカメラワークや、人間を起こすための波動のような映像表現など、それなりに面白いと思える要素はありました。

 しかし脚本の出来が余り良いとは思えません。ひょっとして「幽霊の一人称目線」というアイディアだけが念頭にあり、それ以外の部分に関してはあまり考えていなかったのではないでしょうか。

 さらに言うと、悲壮的なメロディである劇伴も恐怖感を削いでいたように思います。今作のように時間が短く舞台も限られているようなホラー作品は、音楽が無いほうが緊張感が持続すると思います。

関連作品紹介:『インフォーマント!』(2009)

画像出典:IMDB-The Informant!

 スティーヴン・ソダーバーグ監督の隠れた傑作をご紹介。こちらは変わって史実を元にしたコメディです。

 出演は『ボーン・アイデンティティー』のマット・デイモン、『アメリカン・ビューティー』のスコット・バクラ、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のトーマス・F・ウィルソン、『ショーシャンクの空に』のクランシー・ブラウン。

 主人公のマーク・ウィテカー(マット・デイモン)は大企業アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド社の重役。妻と子供にも恵まれ、順風満帆な生活を送っています。そんな彼がFBI捜査官にある密告をします。何と彼の所属するミッドランド社が他国の企業と共に価格協定を行っているというのです。捜査官はウィテカーに感謝しながらも戸惑いを覚えます。社会的に成功している彼が、なぜわざわざ内部告発を行ったのか・・・?

 とにかく主人公ウィテカーのトラブルメーカーっぷりが最高に面白い!何しろ彼はFBIから「やってはいけない」と言われたことを全てやってしまうのです。同僚に告発内容をベラベラと喋ったり、マスコミの取材に応じたり・・・。次第に彼は捜査官の頭を悩ませる存在となっていきます。

 さらにウィテカーはFBIの操作にも協力することになるのですが、それを「スパイごっこ」と称して楽しんでいる節すらあります。そんな彼を演じるマット・デイモンはコメディリリーフとしての役割を十分に成し遂げたといえるでしょう。

 『オーシャンズ』シリーズでも垣間見えたユーモア性が本作でも存分に発揮されています。オススメです。


インフォーマント! (字幕版)
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